介護福祉の会計・財務レポート「社会福祉法人における内部統制Vol.02」
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
法人全般統制(経営管理体制の整備)
- 第1回では、内部統制の概要について説明した。
- 第2回では、内部統制の中でも、最も重要とされる法人全般統制について解説する。
組織運営に関する本質的な課題
社会福祉法における内部統制は、組織運営の関係者(役職員)によって適切な経営を行うための、自立的な仕組み(ガバナンス:組織を統治するプロセス)を強く求めている。
組織運営に関しては、事業の稼働率改善を経営課題として捉えている法人が少なくないが、本質的な課題を突き詰めると、
- トップマネジメント
- 外部環境(営業体制)
- 内部体制・組織(サービス力)すなわちマネジメントの問題
に行き着く。
例えば、いくら営業活動を熱心に取り組んだとしても、サービス体制が不十分であれば中長期的な稼働率の安定化には繋がらないが、その状況を見極め、優先順位を定めて取り組むのがマネジメントである。
法人全体の経営判断に関するプロセス
経営方針が具体化され、全職員に的確に指示し、実行され、結果評価し、フィードバックするという PDCAサイクルは、どの法人においても実施されているものである。
内部統制の観点から、 PDCAサイクルに影響を及ぼすものとして、役職員の意識に影響する①組織風土があり、さらに、②経営リスクの把握と対応、③各部署・事業所における明確な業務分担、④適切・迅速な情報伝達と共有、⑤業績の評価がある。
法人全体の経営判断に関するこれらのプロセスが、全般統制といわれるものであり、下図の内容で構成される。
これらが整備され良好に運用されていると、現場のオペレーションや、事務管理業務が円滑に行われる。
したがって、現場において様々な問題が起こっている場合、これらのどこかに課題があるはずである。
良好な組織風土の形成と、適切な管理体制の整備
内部統制はガバナンスのためだけではない。
事業の安定化さらには拡大のためには、「管理体制の整備」が必要であり、例えば次のようなニーズがある。
- 事業拡大によって施設が増加し、創業経営者だけでは目が行き届かない。若手の幹部が適切に監督できるような体制の整備が必要と考えている。
- 世代交代を考えているが、後継者が全体を掌握し、うまくコントロールできるような体制を整備しておきたい。
- 近隣法人との経営統合を考えているが、自法人の内部管理体制のレベルアップが必要だ
これらのニーズは、次の観点で見直すことが必要である。経営基盤が整備され、引いては安定的な組織運営と幹部の育成につながる。
1.役職員の意識に影響する統制 | ・経営理念や中期経営計画を職員に明示する。 ・それらを機能させるために会議体などの本部機能を整備する。 ・又、職務権限の設定、人材育成等(人事考課制度の整備、キャリアパス)経営管理体制を構築する。 |
2.経営環境の評価と対応 | ・経営環境におけるリスク(制度変更の影響、近隣の競合状況、利用者のニーズの変化等)の把握について、統括する部署及び対応を明確にする。 |
3.組織のルール | ・各部署での職務権限、職務分担、慣習的で属人的な業務運営を排除するために規程やマニュアルを整備する。 |
4.情報と伝達 | ・経営者に正しく情報が伝わる体制や、問題が発生した際に報告すべき部署やその内容が明確であり、重要な情報が共有される体制を整備する。 |
5.モニタリング | ・業績管理だけでなく、中期経営計画実現に向けた会議体の運営や、内部監査、実施指導対策、事業所の監査による状況把握し対策を講ずる。 |
上記の活動は、組織内の特定の担当者に任されていることが多いが、組織の業務として整備することが必要である。
組織の維持・発展には、良好な組織風土の形成と、適切な管理体制の整備が必要であり、継続的な運用によってプラスの循環にしていくことが求められる。
レポートの執筆者
田島一志(たじま かずし)
日本経営ウィル税理士法人 公認会計士・税理士
大手監査法人で、上場会社や医療法人の監査、財務コンサルティング、IPO支援等を、公的機関で中小企業の再生支援に従事したあと、2017年に日本経営ウィル税理士法人に入社。現在、社会福祉法人での会計指導、内部統制支援を担当する。
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